音が鳴る仕組み
フルートの音は、吹き出した息が、楽器の中の空気と相互作用する*1,2ことで、発音されています。
図であらわすと、下図のようになります。この図は、フルートを吹く人を真横から見た図です。
吹いているときには感じないかもしれないですが、例えばラの音(a=440Hz)を吹いている時、吹き出した息(以下、「ジェット」)は、1秒間に440回という、とても速いスピードで上下に振動しています。
ジェットは、上向きになったり、下向きになったりしながらエッジに到達して、管内外に出たり入ったりしています。
一方、管の中では定在波が発生し、気圧が下がったり(空気が膨張)、上がったり(空気が圧縮)しています。
この圧力(密度)の変化が、管の外に粗密波として伝わることで、人間の耳に「音」として知覚されます。
では、ジェットはどうして上下に変動しているか?というと、管内の空気変動の影響を受けるためです。唇からジェットを吹き出すと、吹き出た付近で、ジェットは管内の空気変動の影響を受けて、わずかに上下に変動しはじめます。(下図の黄色い解説を参照)この変動幅は、エッジに到達するまでにだんだんと拡大していきます。
ジェットは上下に変動するので、管内外に入ったり出たりしています。
管内が高圧(空気が圧縮されている状態)になったタイミングで、ジェットが管内に入る*3ことで、管内の空気が圧縮されている状態を維持したり、促進させることができます。逆に、管内が低圧のタイミングで、ジェットが管外に出ることで、低圧な状態を維持することできます。(上図の緑色の解説を参照)
このように、ジェットの変動と管内の空気変動のタイミングが合うことで、音が鳴っている状態が維持されます。フルートの音は、ジェットと管内空気の相互作用(専門用語では「フィードバック・ループ*1,2」)によって鳴っている、といえます。
ジェットと管内空気の変動は、タイミングが重要です。ジェットが唇の出口付近で上側(管外側)に揺らされたからといって、すぐにエッジ付近でジェットが上に振れるかというとそうではなく、遅延が生じます。唇出口からエッジまでの距離や、息のスピードによってこの遅延時間が変わるので、これら吹き方(専門用語では「吹鳴条件」)が正しくないと、ジェット変動と管内の空気変動のタイミングが合わず、音を鳴らすことができません*4。「吹鳴条件」については、別記事で解説します。
*参考文献
[1] N. H. Fletcher and T. D. Rossing. The physics of musical instruments. 2nd edition, Springer verlag, New York, 1998.
[2] B. Fabre. Flute-like instruments, in Acoustics of musical instruments (edited by A. Chaigne, J. Kergomard), Chap. 10. Springer Verlag, New York, 2016.
[3] S. Yoshikawa, H. Tashiro, Y. Sakamoto. Experimental examination of vortex-sound generation in an organ pipe: A proposal of jet vortex-layer formation model. J. Sound and Vib. 331, 2558-2577, 2012.
[4] N. H. Fletcher. The nonlinear physics of musical instruments. Rep. Prog. Phys. 62 723-764, 1999.